朽ちた葉が、風に流されてカサカサと季節の歌を奏でる。
音につられて窓から外を見下ろせば、夕陽に染められた中庭は一段と赤く色づいていた。
色彩の濃さで、短い秋と移ろい行く季節を感じる。

「あのクーデターの日みたいだな」

言葉の意味をはかりかねて首をひねると、いつの間にか並び立っていた恋人――
カミルが微笑んでいた。
その薄い笑みで、含まれているものを察する。

「そんな風に思うのはカミルくらいだよ」

半ば呆れた風に返したら、カミルは「そうかな」と言って肩を竦めた。
苦笑という形で肯定して、再度目先を中庭に移す。

「せっかくの綺麗な景色なのに……」

確かに紅葉の絨毯ができた中庭は、夕陽に染められて普段以上に鮮烈な色を魅せていたけれど……
そこから『血の海』を連想するのは如何なものか。
カミルにかかれば、どんなに美しい景色も禍々しく変容してしまう気がする。

じっと見ているとカミルの言葉が本当に思えてきて、ぞっとして目を逸らした。

「グリエが聞いたら、また『困った人だ』って言われるよ」
「あいつは平和ボケしすぎなんだ」

グリエはダイオスの幹部の一人で、カミルの友人でもある。
ローチの幹部とは思えないくらい穏やかな人格者だ。
カミルと行動を共にしている関係で、自然と私も仲良くなった。

「そういえば、この間の話は考えておいてくれた?」
「ああ、聖夜の話? まだ早いだろ」
「早くないよ。お料理の準備とか……贈り物だってしたいし」

聖夜はカミルの誕生日でもある特別な夜だ。
でも当の本人は、さして重要視しているわけではないらしい。
祝えば喜んでくれるし、感謝の言葉も言ってくれるのだけれど、何かを要求されたことはない。
二年も一緒にいるのに、カミルという男にはまだまだ窺い知れない部分が残されていた。

「俺はお前さえいてくれればいいよ」

嬉しい反面、それでいいのかと悩む。
カミルは何かにつけて贈り物をしてくれるから、貰ってばかりになってしまっているのだ。
同じ分だけ返したくても、生活面で世話になっている現状では、高価な物を頻繁に買うのは無理だった。
だから誕生日くらいは、と奮発するつもりでいたのに……。
そんな風に考えていたら、つい難しい顔になってしまっていたらしい。
咎めるように眉間を指先で撫でられ、はっと顔を上げる。
すると予想以上の至近距離に白面があって、思わず息を詰まらせた。
相変わらず動きが読めない。

「本当は……一つだけ、欲しいものがあるんだ」

目を大きく開いた私の前に、すらりとした人差し指が立てられる。
たったそれだけの動作なのに、綺麗な顔が間近にあるせいか、胸が異様に高鳴った。
微かな吐息が唇にかかり、触れられてもいないのに妖しい予感で痺れそうになる。
2/14  次ページへ
株式会社IGNOTE Copyright © 2010 Operetta All Rights Reserved.