「さ、仕切り直しだ」

動揺する私を置いて、カミルは先に歩いていってしまう。

「待って……待ってよカミル!」

ローチのボスとして、カミルの態度は間違ってはいないのだろう。
裏切り者には、死の制裁を――それが掟だ。
私も分かっている。……分かっているつもりでも、感情が追いつかない。

「待って……!」

とにかくカミルの足を止めて、それから説明をしてもらおう。

混乱した頭で、そう思った時だった。

「死ねえええええぇぇぇ!!!」

瀕死の体を鼓舞するような絶叫だった。
どこにそんな力が残っていたのか、飛び起きたグリエは私の肩越しに照準を定める。
狙っているのは、背を向けて歩いている――

「っ……!」

優先順位は考えるまでもなく、本能的な速さで手が動く。
恋人に散々叩き込まれた銃の腕は、グリエが発砲する前に『敵』を捕らえた。

「グリエ!」

一瞬だというのに、グリエの瞳の動きも、互いの息遣いも、やけに印象に残った。
急所に狙いを定め、引鉄を引く……その刹那に、様々な感情が気道を圧迫する。

「ぐっ……」


私が放った魔弾は真っ直ぐに飛び、グリエの心臓を抉った。
至近距離で放ったせいで、いつもよりも衝撃が強い。

……と思ったのは、私の恐れが呼んだ錯覚だろうか。

「あ……」

ぽたりと、顎から雫が滴る感覚で我に返る。
一瞬涙かと思ったそれは、鮮やかな赤色だった。

たぶん今の私は、グリエの返り血で全身が染まっているのだろう。

「さすが、俺の弟子」
「カミル……」

気がつくと、呆然と立ち尽くす私のすぐ後ろにカミルが立っていた。
のろのろと振り向けば、場違いなほど朗らかに微笑まれる。

「美しいな、マナ」
「え……」
「白も似合うけど、お前には一番、赤が似合ってるよ」
「……」

その時、全て分かった気がした。

「……こうなるの、知ってたの? 知ってて、私に殺させたの?」
「それが本当だとしたら、酷い男だな。別れたほうがいいかもしれない」

おどけた言い方が腹立たしい。
……だけど同じくらい、頭の中が冷えていた。

そうだ。カミルは、ずっと前からこういう男だったではないか。
そしてそんな人間を、私は選んだ。
どこか壊れているのを承知で、側にいるために手を取った。

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