「……」
「その格好じゃ、もう出かけられないな。今夜は屋敷の料理人に作らせるか」

黙したまま俯く私の膝裏に手を回し、軽々と抱き上げる。
横抱きにされた状態は、血まみれのドレスを除けば実に『聖夜の恋人』らしい。

「……カミル」
「ん?」
「……分かってたけど、カミルの傍にいるのは、たまに辛いよ」

赤く汚れた頬を温かな胸に預け、心臓の音を聞く。
カミルは一回肩を竦めて、喉奥で笑った。

「だろうな」
「どこまで試すの?」
「お前が俺のところに堕ちてくるまでかな」

そっと、額に唇が触れる。
あんな方法で私を試すくせに、どうしてこんなに優しい口付けをするのだろう。
だからすっかり騙されて、いつも絡め取られてしまうのだ。

気がつけば心は雁字搦め。
カミルの女、という立ち位置に納得させられている。

「そろそろ、食事にするか」

提案の形をとりながらも、独り言めいた呟きだった。
それに眉を顰め、胃を押さえて俯く。

「今は何かを食べる気分じゃ……」
「安心しろよ。食べるのはお前じゃない」


「どういう意味?」と首を傾げる私を見下ろす、新緑色の瞳が細められる。
綺麗な顔に浮かんだ笑みは、この上なく美しく……悪魔のように妖しかった。

          「――さて、メインディッシュの時間だ」



【あとがき】 BY 松竹 梅
ついにカミルのネタバレ部分解禁!?なSSとなりました。
発売前・直後の情報公開では彼の素性が明かせなかったので、
つきのさんとの間では何度も 「これじゃあネタバレになるよ! ああでも、ネタバレ部分除いて、どうやって表現するんだ!?」みたいなやりとりがあったんですよね。
なので、今回やっと彼のお話を書けて嬉しかったです。

そんなこんなで、皆さまのご声援のおかげで続いてまいりましたNOISEのSSですが、今月号でとりあえずの終了となります。
私の拙いお話を最後まで読んでくださり、本当に有難うございました!
これからも馬車馬のように書き続けていく予定でおりますので、
何卒よろしくお願いいたします。

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